土佐の本枯れ節(本節)

土佐市で昔から製造された、本枯れ節(本節・本鰹節)について。

丸一横山商店 Co.,Ltd

 

土佐の本枯れ節(本節)

本枯れ節(鰹節)の歴史

日本人とカツオの付き合いは長く、「古事記」によれば、西暦450年頃雄略天皇の治世に「堅魚」という名で登場します。 これは鰹(カツオ)の干したものだったと考えられています。鰹は日干ししても塩漬けにしても酸化するので、長期保存が難しい。 現在でも生鰹を保存するには、マイナス50度という超低温冷凍庫でないと酸化します。高知県内でもこれほどの設備を持っている 会社は数少ない水産会社です。

先人たちは、試行錯誤を繰り返し、鰹(カツオ)の保存方法を編み出していきました。現在のように、薪を焚いて煙でカツオを燻す方法が編み出されたのは、 江戸時代の初期。紀州出身の二代目甚太郎という人が土佐国(高知県)の宇佐浦で始めたといわれています。現在の土佐市宇佐町、いまでも漁業の 盛んな町で景色もたいへん良い町です。さらにその100年後、土佐の与一がこれを改良。当時の掟を破り安房(千葉県南部)や伊豆に伝えました。 このとき与一は、鰹節に「カビ付け」を施していたといいます。

江戸時代の産地では、「荒節」や票目を削った「裸節」が作られていました。それが消費地に輸送されるようになり、一度だけカビをつける 「カビ付け一乾節」や何度も付ける「本枯節」が登場しました。

土佐と薩摩の業者が大阪へ鰹節を送るとき、どうしてもカビが吹いてしまいます。カビには良いカビと悪いカビがあり、良いカビをつけて 充分に乾かせば、悪いカビが防げるとわかり、カビ付け一乾節が主流になりました。

さらに大阪から江戸に鰹節を送るとカビ付け一乾節でもまだカビが吹きます。何度も拭き取るうち、カビを拭き取った鰹節は うま味が増すことが判明。江戸の鰹節問屋は仕入先の伊豆・田子の業者にカビ付けした鰹節を注文するようになり、発酵食品である 「本枯節」が登場しました。

「鰹節のカビ」といっても、千差万別。かつおては各工場のムロに住み着いていたカビを使用していました。しかし、真夏や真冬になるとカビ付けが不安定に なったり、悪いカビが混入するので、「いいカビ」を付けたいと考えるようになりました。「いいカビ」とは甘い香りを出して、ビロード状に生える。 見た目にも美しいカビです。 私たちの祖先は、顕微鏡も化学分析のノウハウもない時代から、カビのはたらきに着目し、「いいカビ」を選んで鰹節を作りだしていました。 その伝統は今、私たちが食べている「本枯節」の中にも生きています。

本枯節・年表

  • 712年・・・「古事記」の中に堅魚=鰹の名が登場
  • 1513年・・・「種ヶ島家譜」に「かつおぶし」の名が登場
  • 戦国時代・・・鰹節が兵隊の兵糧食となる
  • 17世紀後半・・・紀州の角谷甚太郎、土佐の宇佐浦で、鰹節製造の重要なプロセスである焙乾技術を発明
  • 1674年・・・二代目甚太郎、土佐の越浦で、燻乾法の基礎を生み出す
  • 江戸後期・・・鰹節の製造技術が土佐に伝わり、大阪や京都の上層階層の間で、消費が伸びる
  • 1790年頃・・・「土佐の与一」が、安房、伊豆、御前崎などを巡回し、土佐の鰹節の製造の技術指導を行う
  • 1822年・・・大阪の「諸国鰹節番付表」に、八戸(青森県)から役島(屋久島)まで122品目が掲載される
  • 1890年・・・村松善八らの努力により、全国鰹節品評会で焼津産が上位を独占するようになる
  • 1900年・・・徹底した焙乾を行い、3~6回カビ付けする、本枯節の焼津節が登場、後に主流となつ
  • 1910年・・・沖縄県でカツオ漁、鰹節製造の技術者を招聘。タイワンで鰹節の生産が始まる
  • 1920年・・・沖縄での鰹節生産量がピークに
  • 1960年・・・焼津水産加工協同組合が、鰹節の削り工程の機械化に成功。全国に広まる
  • 1970年・・・鹿児島県枕崎市の漁船の大型化が始まる。それ以降、鰹節の原料として、近海カツオより遠洋カツオが 好まれるようになる
  • 1975年・・・鰹節生産量が2万tを突破
  • 2000年・・・鰹節生産量4万t突破

本節(本鰹節)はバイオテクノロジーの粋

鰹節(本節)は、なぜあんなに手間暇をかけて作られるのでしょう?

カツオは、単に干すだけでは、脂が酸化して劣化臭が発生したり、アレルギー物質のヒスタミンが生成してしまいます。 何度も煙で燻すことで、水分を抜き、酸化や腐敗を防いでいるのです。

燻したカツオはタール分を削り取り、表面にカビ付けをします。このカビは、カツオの脂肪を栄養にして育ちますが、 飽和脂肪酸を使い、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などは使いません。DHAやEPAなどの高度不飽和 脂肪酸(n-3系)は、植物油にはなく、魚介類に多く含まれています。これらを多く摂取する人たちは、脳機能低下や心疾患などが少なく 、平均寿命も長いことから、「体にいい脂」であることが知られています。鰹節のカビは、人間に有用で必要な脂肪を残してまろやかな 鰹節を作ります。日本人が、試行錯誤を繰り返して生み出した鰹節は、「バイオテクノロジーの粋」といえます。

参考文献:「カツオと鰹節の同時代史」(コモンズ)、和田俊「かつお節」他

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